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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)876号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木惣三郎の上告理由第一点について。

所論は経験法則違背の違法を主張するが、結局は原審のした証拠の取捨、判断、事実の認定を非難するに帰するから採用できない。

同第二点について。

所論は、仮執行宣言付支払命令に対する異議の申立により移行した訴訟における審判の対象は上訴に準じ異議の当否であるにかかわらず、本件一審判決はこれを請求の当否と解したため同一訴訟物につき給付判決と仮執行宣言付支払命令の二個の債務名義が重複して存在することとなり、原判決はこの点を看過して一審判決を維持しているから違法である旨主張する。

おもうに、仮執行宣言付支払命令に対する異議は、仮執行宣言前の支払命令に対する異議と同様、単に督促手続を排し通常訴訟手続による審判を求めるものと解すべきであるから、異議申立により移行した訴訟においては督促手続におけると同一の請求についてその当否を審判すべきものである。ただ、督促手続とその後の通常訴訟とは一体をなすものであり、また仮執行宣言付支払命令については民訴四三七条のような規定がないから、同法一九八条の適用等の関係上通常訴訟においてなさるべき判決において仮執行宣言付支払命令の取消、変更または認可を宣言するのが相当である。

本件一審判決をみるに、請求の当否について審判していることは明らかであるが、単に請求どおりの給付を命ずるのみで仮執行の宣言をしていないところからみて、さきになされた仮執行宣言付支払命令はこれを取消す趣旨であると解すべく、また原判決は右の趣旨の一審判決を維持して控訴を棄却したものと解される。

しからば、本件においては所論のように二個の債務名義が重複して存在することはなく、所論は結局右と異る見解に立脚して原判決の違法を主張するものであつて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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